鹿児島県の調査に行ってきました。

九州障害者アートサポートセンターは、九州の広域センターとして支援センターを未設置の県の調査を行なっています。
今回は鹿児島県と宮崎県を2泊3日かけて訪問しました。まずは鹿児島県のレポートです。

〈Lanka〉@鹿屋

最初に訪問したのは鹿屋市にあるNPO法人Lankaです。Lankaとはフィンランドの言葉で「糸」という意味だそうで、2011年から就労継続支援B型事業所として農園芸作業や蜂蜜づくり、内職などを行っています。その活動の中で週に1回外部講師を招き、創作活動を行い、作品を商品化することで仕事に繋げるような活動を行っています。

お話を伺った場所は、ユクサおおすみ海の学校という廃校になった小学校をリノベーションした昨年の夏にできたばかりの宿泊型体験施設です。名前の通り、海が目の前に広がっているとても美しい場所にありました。そこで、サテライト施設として、suddo/というシルクスクリーンの体験工房を運営し、kiitosというチョコレートを製造・販売しています。

お話を伺って印象的だったのは、メンバーの描く絵が「一番好き」と何度も繰り返されたいたことです。「だから、多くの人に観てもらいたい」という思いが活動の原動力になっています。
アートを活動の主軸にしている事業所ではありませんが、何気無く描いた絵の中から光るものを発見し、見せ方を工夫することで、何か仕事につながるようなものになっていけばと日々探っているそうです。
Lankaのメンバーの描くゆるくて可愛い絵に私も虜になってしまいました。

suddo/では、Lankaのメンバーが描いた絵をシルクスクリーンにして、訪れた人がTシャツや缶バッジなど制作したり、購入したりできます。
シルクスクリーンを使えば、グッズ作るにしても、自分たちの手で行うことができるので、少量ずつ作ることができます。
日々の制作が商品化に繋がり、ゆくゆくは障害のある人たちにとってsuddo/が働ける場所となることを目指しています。

kittosはbean to barという製法で、カカオ豆からチョコレートバーになるまで一貫して製造しています。Lankaの作業場で選別された豆がここでチョコレートに生まれ変わります。

桜島をイメージした台形型の板チョコで、パッケージにはLankaのメンバーが描いた絵が使われています。ユクサおおすみ海の学校での販売のほか、九州を中心とした各地のお店でも取り扱っています。
ちなみにkittosとはフィンランドの言葉で「ありがとう」という意味だそうです。試食させていただきましたが、豆や工程で味が変わるので様々なフレーバーや食感を楽しめます。

その他、鹿屋市でのマルシェに参加したり、公募展の企画を始め、鹿屋市内の他の事業所を巻き込みながら少しずつ活動を展開されていました。
ユクサおおすみ海の学校は宿泊施設と食堂があり、福祉に関わりがない人にも開かれた場所で、kittos自体も福祉施設ということは表に出さずに販売しています。
Lanka=糸という名前の通り、いろいろな所につながり、OPENにしていく姿勢そのものに感じました。suddo/はできたばかりの施設ということで、今はいろんなの種を蒔いているように思います。これからの展開に注目していきたいです。

〈しょうぶ学園〉@鹿児島

鹿児島でもう1箇所訪問したのが鹿児島市にあるしょうぶ学園です。

広大な敷地のしょうぶ学園は入所者・通所者合わせて約200名、職員約100名の大きな施設です。お話を伺う前に施設見学をさせていただきました。

最初にご案内いただいたのは、Sギャラリーという施設内のギャラリーでした。この時は「布の工房」で活動しているしょうぶ学園のメンバーの個展が開催されていました。

個展のほか、グループ展やワークショップなども開催されているそうです。施設内に発表の場があるのは利用者にとっての励みになるばかりでなく、来訪者にも開かれた場所となっているようです。

その後はそれぞれの制作の現場を見せていただきました。

「木の工房」で制作されているお皿です。掘る作業が好きなメンバーが掘った木材を、職員が成型して制作しています。木を掘る行為やその感触が好きなら、そことんその作業ができる。そして、それが独特な唯一無二の製品になるのです。

しょうぶ学園では、メンバーが始まりから完成まで作ったものを「作品」、職員と共同で作ったものを「クラフト」と呼んでいます。職員、というより職人と呼ぶべきスタッフが各工房にいます。また、施設内にある椅子や机などはすべてこの木の工房で作られているというので驚きです。

こちらは「土の工房」です。
造形作品のほか、器やタイルなどのクラフトも制作しています。

こちらは「布の工房」。そして、そこから発展したnui projectの様子です。
以前の下請け作業では、まっすぐ縫うことや規定通りのものを作ることを目指していたそうですが、メンバーそれぞれが作りたいものややりたいことを追求して行ったら、毛玉のような形だったり、独特の縫いで作られたものになったとのことです。

「紙の工房」では、絵画を描いたり、和紙を制作したりしています。壁や床までいたるところに絵が描かれている工房は圧巻です。

ここで作られた和紙はしょうぶ学園の建物の壁紙としても使われています。

こちらはOmni Houseという地域交流スペースです。各工房で制作されたクラフトの販売や、音楽パフォーマンスグループotto & orabuの練習に使われていたり、地域の人のコミュニティスペースとして公民館のような場所となっています。

地域交流の場はOmni Houseのほかに、ポンピ堂というパン屋さん、Otafukuというパスタ屋さん、そば屋凡太があります。いずれも職員とメンバーが働いており、土の工房で作られた器、木の工房で作られた机・椅子、紙の工房で作られたメニュー表などが使われています。
それぞれの工房は独立していますが、施設内で作られた様々なものをマッチングさせるのは、しょうぶ学園の職員の手腕です。

otto & orabuはしょうぶ学園のメンバーとスタッフで構成されており、パーカションと声(叫び)による音楽で全国各地で演奏を行っています。練習も見学させていただきました。
一般に音楽で揃えるべきとされているリズムや音程が絶妙に揺らぎながら混じり合って、でも一つの曲としてまとまっている独特の音楽は、いろんな人を肯定して許容するしょうぶ学園の姿そのものを反映しているかのようでした。(演奏に聴き入ってしまい、写真を撮るのを忘れていました・・・)

全国的にも注目を集めるしょうぶ学園ですが、施設長の福森さんは「僕は『福祉』をやっただけ」と仰っていました。「その人らしい生き方をサポートする」「その人の立場に立って」「彼らが幸せになる」・・・などという福祉で語られる言葉と現場との差異に疑問を持ったために、「その人らしいとは?」「その人がやりたいこととは?」を探っていった結果が今の姿だとのことです。
木工作業や刺繍作業をしていて「できた!」と見せてくれるのは、穴が空いた板だったり、糸がぐるぐる巻きの塊になったようなものだったり・・・「やりたいことはこれだったのか!」と驚きつつも肯定していったそうです。そうやって作られたものは、それ自体が美しい作品というよりも、作り出す行為自体に美を見出しているようです。

そうやって作られた空間はメンバーにとって心地良いだけでなく、地域の人や来訪者にとっても居心地の良い、また訪れたい場所となっていました。

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