「アートサポーター養成講座〈美術/応用編〉」レポート

昨年度実施したアンケートの中で、障害のある人たちの美術作品の「商品化について課題がある」という回答が多かったことを踏まえて、2月20日〜21日に熊本と福岡にて、福祉施設と協働で商品企画、販売などを展開しているユニット「HUMORABO(ユーモラボ)」の前川雄一さんと前川亜希子さんを講師にお招きし、障害のある人たちの芸術活動に興味・関心のある方たちを対象に、福祉の魅力を商品に展開するプロセスや考え方を学び合う講座を開催しました。
 

講座内容

福祉を魅力的に変える ”ユーモラ” ってなんだ??

 HUMORABOの活動紹介
 グループワーク①「福祉の魅力をコトバ化しよう!」
 HUMORABOの関わるプロジェクト紹介
 グループワーク②「ユーモラを発見しよう!」
 グループワーク③「ユーモラを届けよう!(ユーモラ)な社会にするためのモノ・コト・バ」
 質疑応答

 

参加者数

 熊本:31名
 福岡:17名
 

HUMORABOの活動紹介
「HUMORABO」は、”福祉と遊ぶ”をテーマに、デザイナー夫婦(前川雄一さんと亜希子さん)ならではの二つの視点で、社会と福祉の楽しく新しい関係を構築しているデザイナーユニットで、福祉施設商品の企画、デザインだけでなく、ブランディングやイベント企画など多岐にわたる活動をされています。熊本でも福岡でも福祉関係者だけに固まらないようにグルーピングさせていただき、講座はスタートします。
まずは、参加者のみなさんに、自己紹介と参加動機をお話していただきました。

今回のセミナーは、熊本会場、福岡会場ともすでにアート活動を行なっている福祉関係者をはじめ、グラフィックデザイナー、雑貨店経営者、行政関係者など、さまざまな分野の方が、障害のある人たちの美術作品を商品化に展開していくまでの柔軟な発想や商品をより広めるためのノウハウを求めてご参加いただきました。

続いて、お二人から「HUMORABO」の設立背景から現在までの活動についてお話しいただきました。「デザインする前後を考えていくと、どんどん広がっていって今のように商品のデザインをするだけに留まらない活動に発展していった」と言われるように、売れる(売りやすい)商品をデザインするのではなく、制作している人や場の存在や使用している素材を含めて、商品の付加価値をつけて、それに共感を得てもらうことを大切にされています。「HUMORABO」のお二人が関わった商品やプロジェクトには必ずストーリーがあり、そのストーリーが中心となって開発製造から販売まで循環しているのです。

グループワーク①「福祉の魅力をコトバ化しよう!」
ここで1回目のグループワークが始まります。
「福祉に触れる楽しみ」、「福祉の中に感じる課題」の2つのテーマを思いつく限りグループ内で出し合って意見交換していきます。福祉分野の中で考えているキーワードを他分野の人たちと共有することで、楽しみが広域的になったり、課題が多面的にみえてきたりします。このワークで出てきた言葉が後半のグループワークのキーワードになっていきます。

HUMORABOの関わるプロジェクト紹介
後半のグループワーク前に、まず「HUMORABO」がブランディングを行なっているプロジェクト「NOZOMI PAPER Factory」などの事例をもとに雄一さんからお話しいただきました。このプロジェクトは、東日本大震災で被害を受けた宮城県南三陸町にある「のぞみ福祉作業所」との復興支援プロジェクトでもあり、震災から1年後の2012年にスタートします。地域や全国各地から古紙を集めて再生した「NOZOMI PAPER ®」を始め、Tシャツや缶バッヂなどを制作し、サポーターグッズとしての販売や施設再建の動きを発信しておられ、支援をする/されるという関係だけではない「NOZOMI PAPER Factory」の仲間として共に楽しむことができる関係づくりを構築されています。

お話を伺っていくうちに福祉施設の商品化に関わる中で、社会との関係づくりの再構築という大切な概念がみえていきます。

グループワーク②「ユーモラを発見しよう!」
今回の講座のサブタイトルにも含まれている「ユーモラ(HUMORA)」は、HUMAN(ヒューマン/ひと)とHUMOR(ユーモア/おかしさ)から生まれた造語で、ここでは“誰しもが幸せに楽しく生きるためのヒント”ととして定義づけられています。

このワークでは、前半のグループワークで出てきたキーワードを“ユーモラ”というフィルターを通して改めて言語化し、新たな魅力に変わる可能性がないかをグループで意見交換をしていきます。あえて商品化に直結することは考えず、ストーリーを生み出すヒントを探るきっかけづくりと捉えて話し合うのですが、少し戸惑っていた参加者もいたので、「福祉の中に感じる課題」をポジティブに解決していく方法から考えていくことになりました。

グループでの対話も徐々に盛り上がり、出てきたキーワードを絞って考え方の共有をして発表してもらいました。各グループからは「社会とつながる」という言葉が多く、福祉という枠の中だけでなく他分野の人たちとの課題共有で解決していくことの必要性を感じられているように見受けられました。

グループワーク③「ユーモラを届けよう!ユーモラな社会にするためのモノ・コト・バ」
先ほどのグループワークの発表で出てきたキーワードが“ユーモラ”の種となり、ストーリーを通して社会にどういう価値を与えられるか考えます。このグループワークではターゲットを考えたり、つながっていく社会を意識したり、先ほどまで共有していた課題やアイデアが形となっていきます。唐突なアイデアでさえも、実現可能に捉えられるほど考え方が柔軟になり、最後の発表では、どのグループも“ユーモラ”の要素が含まれた発表をしていただきました。

質疑応答
プログラム最後の質疑応答では、商品管理や取引契約や販路についての質問から、職場での意識共有、協力者や外注先のオファーなどについての質問があり、当センター樋口も加わり、それぞれの事例を交えながら参加者の皆さんとのディスカッションを行いました。このディスカッションで感じたことは、「何をつくるか」ではなく、「何を誰に伝えたいのか?」ということから物事を考えていく必要性を感じました。

このセミナーでは、グループワークの時間を多めに取り、「HUMORABO」のお二人が各グループと対話し、自分たちの事例を交えながらアイディアをシェアしていただいてました。その時間が参加者の皆さんにとって刺激的で、頭を柔らかくする貴重な時間だったと思います。商品化のマニュアルではなく、今後、障害のある人たちが当たり前に生きていける社会を築いていくための、関わる手段(商品・サービス)を生み出すヒントを持ち帰れたセミナーだったのではないでしょうか。

最後に「HUMORABO」から一言。
「誰かを笑顔にするためじゃなくて、まずは自分たちが面白いと思うことから考えるのが大事だと思う」

今回のセミナーは、商品化の虎の巻を皆さんに伝授したかった訳ではありません。(もちろんそんなものは我々も持っておりませんが)参加者の皆さんが今回の講座を経てモヤモヤや気づきを持ち帰っていただくことによって、今後の活動を続けていく上で徐々にその考え方が熟成し発酵して、アクションにつながっていくのだと思います。

改めまして、セミナーで登壇いただいた講師の「HUMORABOのお二人を始め、ご参加いただいたみなさんに感謝とともに、これからの活躍を期待しています。
また、今回もまた熊本会場も福岡会場も交流会までしっかりと盛り上がり、それぞれの場所で“ユーモラ”を共有していけるネットワークも構築できたと思います。

また皆さんとお会いできる機会を私たちも楽しみにしています!

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