「アートサポーター養成講座(美術/基礎編)」レポート

昨年度「九州障害者アートサポートセンター」が実施した、「障害のある人たちの芸術活動について」のアンケート結果をもとに、障害福祉サービス事業所の関係者をはじめ、障害者の芸術活動に関心のある方を対象に、10月〜12月にわたって、長崎・宮崎・鹿児島・沖縄の4県(平成30年度都道府県支援センター未設置県)で「アートサポーター養成講座(美術/基礎編)」を開催いたしました。
 

講座内容

○講座① 芸術活動の環境整備について
 講師:山中理恵(ひまわりパーク六本松/福岡)
○講座② 芸術活動の取り組み事例報告
 講師:石丸徹郎(MINATOMACHI FACTORY/長崎)
    富村博光(アートステーションどんこや/宮崎)
    大山真司(Lanka/鹿児島)
    朝妻彰(アートキャンプ2001実行委員会/沖縄)
○グループで意見交換
○講座③ 仕事へ展開するための準備、事例紹介
 講師:樋口龍二(九州障害者アートサポートセンター/福岡)
○ディスカッション、質疑応答
 

参加者数

長崎会場:33人
宮崎会場:19人
鹿児島会場:22人
沖縄会場:28人
総勢:102人
 

全会場共通で、講座①「芸術活動の環境整備について」を山中理恵さん、講座③「仕事へ展開するための準備、事例紹介」を当センター樋口からテーマに沿って、事例をもとにお話いただき、講座②「芸術活動の取り組み事例報告」は、長崎会場では石丸徹郎さん、宮崎会場では富村博光さん、鹿児島会場では大山真司さん、沖縄会場では朝妻彰さんに、各団体の先駆的な取り組み事例として発表していただき、各会場で大変興味深いお話を伺うことができました。
 

講座①「芸術活動の環境整備について」
山中理恵(ひまわりパーク六本松/福岡市)

山中さんが所属される「ひまわりパーク六本松」では当初、公園の清掃などを中心に活動されていたそうですが、今では絵画制作をメインに活動されています。施設でのアート活動を提案されたのは山中さん本人で、施設で認めてもらえるまでに相当な努力が必要だったそうです。はじめに取り組んだのはカレンダーの制作販売で、2ヶ月で1000部を完売したことがきっかけでアートを主軸とした活動となり、今では工賃が当初の3倍にもなっているそうです。

創作の環境整備として、創作のきっかけづくりをはじめ、画材の特徴、作品の保存・記録方法、商品化からデザイナーとの関係づくりなどについて、事例をもとにお話いただき、今後アート活動を始めたいと考えておられる参加者の皆さんは、頷きながらノートに記録されていました。

実践的な話をしてくださった山中さんから最後に、「こういう活動をしていると家族が利用者を誇りに思うようになり、喜びを感じてもらえる事例が多い」というお話をされました。アートの力によって、さまざまな価値観が柔軟になっていく活動を通して、ご自身も楽しく仕事をされている姿に参加者の方々は刺激を受けられていました。
 

講座② 芸術活動の取り組み事例報告
【長崎会場】
石丸徹郎(MINATOMACHI FACTORY/長崎県佐世保市)

福祉事業所?!とびっくりするぐらい、とてもクリエイティブな空間が広がる「MINATOMACHI FACTORY」でどのように創作活動から仕事を生み出していっているのかというお話をしていただきました。

「創作活動と地域経済をどう結びつけるか」というテーマで活動している「MINATOMACHI FACTORY」では、スタッフ(「MINATOMACHI FACTORY」では、利用者をスタッフと呼ばれています)は「自分の仕事は自分でつくる」すなわち自分が得意なことを仕事にできるという環境をつくられています。魅力的な商品を数多く発信している「MINATOMACHI FACTORY」では、絵を描く人、デザインをする人、縫製やプリントする人と、それぞれの担当がいます。「絵画やイラストは工賃アップに結びつきづらいと思われる方もいますが、実はそのまわりには仕事が産まれやすいのです」と石丸さん。そこからどのようなプロダクトやサービスが発信できるかということを考えることが大切で、地域産業を支える拠点として、障害のある人材の価値、感覚、感性が地域の資源となる観せ方やブランディングも大切にされているようです。

さらに「MINATOMACHI FACTORY」では、企業や団体とも連携を取りながら商品開発も展開されています。今では、スタッフの働くことへの実感や意欲向上が生まれ、携わった企業や団体は、障害理解や障害者雇用への関心など、そのつながりが徐々にまちづくりへ発展しているそうです。強い理念のもとに、「ひと/もの/ばしょ」がつながる斬新で新しい形のサービスを展開している「MINATOMACHI FACTORY」の存在は、長崎で活動される参加者にとっても心強い存在であり、この講座をきっかけに長崎で横断的なネットワークへ広がっていくことを期待します。
 

【宮崎会場】
富村博光(アートステーションどんこや/宮崎市)

「アートステーションどんこや」のメンバー(「アートステーションどんこや」では、利用者をメンバーと呼ばれています)にスポットをあてて、そのメンバー作品を紹介しながら、作品が生まれるまでのストーリーを熱心に掘り下げてお話くださいました。

「会話という方法でコミュニケーションが取れなくとも、メンバーが描いた作品などを通して、社会とつながることができる」と富村さんは言います。障害のある人たちが中心となって1994年に設立された「アートステーションどんこや」では、開設当初から創作・表現活動を中心としておこなえる拠点となっており、最近では、「アートステーションどんこや」とつながりのある地元のデザイン会社と企業がタイアップし、メンバーの絵画やイラストを商品化に展開し、全国にある大手雑貨屋など販売されているそうです。富村さんも「今までの自分たちだけの動きでは考えたことがなかったロイヤリティをいただくことができている。」とのことで、しっかりアート活動が施設の工賃アップにつながっている事例をご紹介いただきました。

最後に「生きるとは?人とは何なのか?」というテキストが投影され、富村さんから「メンバー・スタッフともに寄り添いながら楽しく過ごしていきたい。」と話していただき、アート活動から個性が表現され、”その人らしさ”を生み出していく大事な活動ということを教えていただきました。
 

【鹿児島会場】
大山真司(Lanka/鹿児島県鹿屋市)

大山さんは、福祉の学校を卒業後も福祉施設で職員として働いておられたころ、障害のある人たちの施設での過ごし方に疑問を感じて2011年に「Lanka」を設立されました。

「Lanka」では、チョコレート製造、シルクスクリーン、養蜂業が主な活動で、それぞれ商品化する際にメンバーのイラストをパッケージなどに使用されて販売されており、現在は廃校になった小学校を体験型宿泊施設として2018年にリニューアルオープンした「ユクサおおすみ海の学校」に、福祉施設としてだけでなく、ショップとしてチョコレートの製造販売、シルクスクリーン工房として体験をサービス化されて運営しておられます。

設立当初は軽作業の下請けなどが多く、アート活動に興味はありながらなかなか始められなかったそうです。そんなとき、メンバーさんが毎日渡してくれる手紙に描かれたイラストをみたときに、「こんなに味のある作品を活かさないわけにはいかない」と思った大山さん。それがきっかけとなりアート活動を始めたそうで、現在までの事業が展開していく中で、絵画やイラストを活かした商品につなげていく背景などをお話いただきました。これからの活動について「メンバーの存在を伝えていく機会を増やしていくと同時に、障害者施設という場を超えたさまざまな人たちが集まる場所をつくっていきたい」と熱く語っていただきました。
 

【沖縄会場】
 朝妻彰(アートキャンプ2001実行委員会/沖縄県那覇市)

朝妻さんは元々、特別支援学校の美術講師だったそうで、障害のある人たちの表現活動を支援する「アートキャンプ」という企画展を2000年から続けられておられ、創設者の一人でもあるそうです。今回は、現在の活動の中心となっている「アートキャンプ」を中心に、企画者・アートサポーターなどの視点からお話をしていただきました。

「アートキャンプ」には大きな2つの目的があり、1つは「1人の作家として表現されたそれぞれの世界観を作品として紹介する場の提供」と、もう1つは「卒業後でもアート活動が継続できるきっかけを残しておくこと」と朝妻さん。それぞれの作品の持つ世界観を大切にした個展をはじめ、離島での作家発掘や、親での子ワークショップ、関東や関西の講師を招いてのセミナーなども地元沖縄で継続的に開催されておられます。また、活動の課題として、展示会への作品公募を毎年かけているものの県内全事業所に情報が行き渡っていない状況であるため、今後は広報と新たな作家発掘が必要と感じているそうです。今回の講座で、「アートキャンプ」の活動を知り、公募展に応募される事業所も増えたようで喜んでおられました。

参加者から、20年前から活動を継続させるモチーベーションについて聞かれると、「これまですごい作品との出会いがあったから、作品に引きずられるようにして続けることができているにすぎない」と朝妻さん。障害のある/なしの枠を超えた魅力的な作品をより多くの人たちに観てもらうためにこの活動は続いています。そしてこれからも新たな出会いからネットワークを広げながら継続していくそうです。
 

グループで意見交換
講座①②が終了後、各グループで以下の2つについて意見交換をしてもらいました。
 ○今回この会に参加したきっかけ
 ○講座①②を聴いていて心にひっかかったキーワード

自己紹介をバックグラウンドを交えお話されていて、各会場でこの時間は盛り上がり、ある会場では「参加のきっかけの話で盛り上がりすぎて、2つめのトピックまで辿り着けなかった」というグループも。各会場とも、福祉関係者をはじめ、当事者・家族、行政担当者、クリエーターなどさまざまな分野の方々にご参加いただき、それぞれの立場からこの講座への参加の意気込みを聞くことで、今後の活動のために連絡先を交換していたグループも多くありました。

2つ目のトピックについても各会場でいろんな意見交換がありましたが、比較的多かったのが「先入観を持って、支援してしまう」「表現作品のアウトプットにするプロデュース力が必要と感じた」など、この意見交換の時間を通して、お互いの課題を共有したり、課題の解決に向けたアイデア提供などが始まっていました。
 

講座③ 仕事へ展開するための準備、事例紹介
樋口龍二(九州障害者アートサポートセンター/福岡市)

各会場での最後の講座として、当センターの樋口より、NPO法人まるが運営する「工房まる」での事例を始め、「maru lab.」、「ふくしごと」、「Able Art Company」の事例から、障害のある人たちの表現作品のアウトプットについてお話させていただきました。

作品を発表したり商品化していく流れとして、作家との契約から作品のデータ管理、作品の二次使用権販売、価格設定、広報活動などについて、社会に魅力的にアイトプットするための準備から実行までを、さまざまな事例をもとにお話させていただきました。
 

ディスカッション、質疑応答

参加者からは、「モチーフや手法はどのように決めていますか?」、「作品の価格設定や販路の開拓について詳しく教えてほしい」と、これからアート活動を始めたいと考えられてる方や、活動をおこなっている際にぶつかっている課題についての質問が飛び交い、時には熱く、時には笑いも生まれるディスカッションが繰り広げられました。

障害のある/なし関係なく、ひとりひとりが表現できる環境をつくり、その表現を魅力的にアウトプットすることで地域に多様な価値観は生み出され、そして少しずつじっくりと発酵していきます。障害のある人たちのアート活動を通じて多様性を社会にアピールするのではなく、表現作品との対話を通じて人や社会との差異を愉快に感じてもらえる人が増えていくことを期待しながら、私たちも活動を続けたいと改めて感じた九州ツアーでした。

改めまして、セミナーで登壇いただいた講師のみなさんを始め、ご参加いただいたみなさんに感謝とともに、これからの活躍を期待しています。

セミナー後の交流会も各地で名刺が飛び交い、参加者それぞれでいろんな話で大盛り上がりでした。
皆さんこれからもつながって、世の中を愉快にしていきましょう!

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