「障害のある人たちとの舞台芸術を考える座談会」を開催しました!

3月16日(土)に今年度最後となるセミナー「障害のある人たちとの舞台芸術を考える座談会」を開催いたしました。

今回のゲストは生活介護事業所カプカプの所長で演劇ライターでもある鈴木励滋さん、九州大学大学院芸術工学研究院助教の長津結一郎さん、一般社団法人パラカダンス代表理事で振付家・ダンサーの野中香織(そら)さん、社会福祉法人明日へ向かっての音楽ディレクターを務めている渡辺融さんの4名をお招きしました。

はじめに、鈴木さんからカプカプの紹介と「障害とは?」や「はたらくとは?」「福祉とは?」といった話を伺いました。
障害とは何かを考えたときに、身体の機能や構造の違い(=医学モデル)であるという考え方や、その違いによって不利益を被ること(=社会モデル)という考え方がありますが、鈴木さんは「社会」というより関係性の問題(私とあなた、私と〇〇)だと捉えることでより自分事として考えられる、と言います。また、人との「違い」によって生きづらさやしんどさを感じることは障害者やマイノリティに限った話ではありません。

ところで、カプカプでの毎日はカプカプーズ(カプカプの利用者)が喫茶店で働き、近くの団地に住むお年寄りが自然と集まってくるそうです。
カプカプで目指されている「はたらく」とは「はた=傍」が「らく=楽」になること。生きづらさ、しんどさとは対極の位置にあります。
また、それは「かくあるべし」という規範に従う風潮とは対極の位置にある「ザツゼン」という、カプカプを象徴する言葉にも繋がります。
そうやって既存の価値観を揺さぶっていく態度は、アートの得意分野の一つです。カプカプでは、アーティストとのワークショップを通して、一人一人の表現を肯定したり、周囲の人と関係を紡いだり、スタッフの面白がる力も伸ばしたりすることを試みています。

続いて、鈴木さんと長津さんのお二人のクロストークを行い、アートに対する考えや、生きづらさを生む「こうあるべき」という呪縛の話、人と人との関係性の話など、さらに深掘りしていきました。

カプカプでのワークショップの積み重ねは、ダンスを上手に踊ったり上手に演技したりするための訓練とは別のベクトルの、時間をかけて「こうあるべき」という呪縛をほどいていくことを目指しています。そうしてやっと、自由な表現が生まれる下地ができていくそうです。
ここでいう表現とは「作品」としてパッケージ化する表現ではなく、いわば作品未満の「関係」が生まれるための表現でもあります。それは作品以前の、アート以前のものかもしれません。

続いて、福岡を拠点にここ数年で立ち上げたプロジェクトの事例紹介として野中さんと渡辺さんにお話を伺いました。

そらさんはコンテンポラリーダンスの手法を生かして、各地の芸術祭や教育現場、福祉施設などでコミュニティダンスの実践を行なっています。

コミュニティダンスとは、ダンスの経験や技術を必要とせず、例えば身体に障害がある方でも「ちょっと指が動く」という行為もその人の表現と捉える、誰もが参加可能なダンスだそうで、そらさんは「ダンスは生活そのもの」と仰います。
障害のある方だけでなく、沖縄ではおばあを集めて戦争の記憶と平和のメッセージを伝えるようなダンスを制作したこともあるそうです。
2018年には一般社団法人パラカダンスを設立し、イベントを主催したり、障害のある人たちのダンスの講師をしたりと活動を展開しています。
そらさんのワークショップした方には、誰かと一緒に身体を動かすことで仲間になれたと感じたり、互いを肯定し合うことで自分を受け入れられたと感じたりすることで「自分がこんなに動けるとは思わなかった」と思えるほど身体を解放できるという方もいるそうです。

渡辺さんは一般社団法人明日へ向かっての音楽活動ディレクターとして、ガムラングループ「Go On」を結成し、障害のある利用者と共に音楽活動を行なっています。

ガムランとはインドネシアの伝統打楽器で、特徴的なのは音階が5つしかない(西洋音楽ではドレミファソラシドの7音階が一般的)ため、とてもシンプルな響きを奏でることができます。
Go Onでは利用者と一緒に、書きためたメロディーを繰り返しながら、歌詞をつけたりしてセッションをすることで徐々に形をかえていく、いわば集団での即興の演奏をしているそうです。一つの空間の中で複数の人が一緒にセッションをしていると、ときにはズレたりしながら多様な音が一緒になって世界が構成され、一つの生命体のような音の重なりが生まれてくる。そんな偶然性に面白さを感じることで、創作が生まれ、それが結果的に音楽になる、という話が非常に興味深く感じました。

最後に登壇者全員によるディスカッションと質疑を行いました。

ディスカッションでは、普段の練習(またはワークショップやセッション)での面白い「瞬間」とそれを「作品」として発表することのジレンマや、表現が生み出される際の「自分」と周囲の人の関係性、さらには多様な人が関わる場の独自性について・・・などなど議論は多岐に渡りました。
また、質疑の中では今の社会に蔓延している「役に立たなければいけない」という風潮と「生きづらさ」に関して、障害者やマイノリティに限った問題ではない、ということが改めて共有されました。

鈴木さんが仰る「障害福祉の世界を変えるのではなく、障害福祉から世界を変える」というビジョンに、少しでも近づける座談会になったのであれば幸いです。

 

座談会終了後には、近くの公園で野外アフタートークが開催され、参加者とゲストの話は盛り上がり続けました。

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