沖縄県の調査に行ってきました。

九州障害者アートサポートセンターは、九州の広域センターとして支援センターを未設置の県の調査を行なっています。2月15日より2日間、沖縄県の施設・団体を訪問してきました。

〈LOVE Junx〉

沖縄アクターズスクール出身で、チーフインストラクターとしても活躍した牧野アンナさんが設立したダウン症の方たちのダンススクールLOVE Junx(ラブジャンクス)。現在では関東・関西・北海道・沖縄の4箇所で展開しています。

当初沖縄では世界ダウン症の日のイベント出演のために半年間のみレッスンをしていたそうですが、「通年で続けて欲しい」という強い要望があり、牧野さんのアクターズスクールの生徒であり、インストラクターの経験もある久田恵梨香さんが中心となって6年前から沖縄での活動が始まりました。
現在では月に1、2回ほどレッスンを行い、小学1年生〜30代の方まで約60名が登録しています。

この日はちゃたんニライセンターにて、3月に出演するイベントに向けてのレッスンでした。LOVE Junxでは自由に踊ることを基本としたクラスからイベントにも出演する本格的な振付で踊るクラスなどいくつかのクラスに分かれています。見学させていただいて驚いたのは、その動き・振付の激しさです。

LOVE Junxでは「もっと踊りたい」「もっと〇〇したい」と言える環境を大切にし、「ダウン症だから難しいだろう」と壁を作ることなく「これからできるかもしれない!」を追求しているとのことでした。
自分で出来るものは出来るようにまずは挑戦させるという姿勢はダンスだけでなく、日常生活にも通底しており、「この子のお世話をしなきゃいけない」「ずっと一緒にいなきゃいけない」という家族の意識が変わってきているそうです。
毎週ダンスレッスンに通うことでレッスンで刺激を受けることで体を動かしたり、体力がついたり、いっぱいご飯を食べてよく寝るようになったという健康面の改善もある生徒もいるとのことでした。

レッスンの最中には時に厳しいことを言う場面もあるそうですが、その裏には「ステージに立つからには、かっこいいみんなでいてほしい」「かっこいいみんなをたくさんの人に見てほしい」という想いがあります。
大学の学園祭や地域のお祭りといったイベントにも年間10〜20回参加し、ダウン症の彼らに対して「あの子のこと知っている」「こんなことできる人たちなんだ」と地域の人や周囲の子供たちがダウン症の人たちと出会える機会を大事にしていきたいとのことでした。

また、長く活動を続けているうちに、生徒同士の関係性に変化が生まれたり、「先輩がこんなことできるから自分もできるはず」という連鎖が生まれてきているといいます。
いずれダウン症の生徒からインストラクターが生まれる日も近いかもしれません。

〈社会就労センターわかたけ〉

続いて訪問したのは社会福祉法人若竹福祉会が運営する社会就労センターわかたけです。園芸などの日中作業のかたわら、週に一回絵を描いたり、陶芸をしたりする時間を設けています。

そもそもの始まりは「障害者の」と冠を付けずに、本当に良いと思った作品を集め、「美術作品として紹介し、アーティストとして紹介する」との思いで浦添市美術館で開催された「アートキャンプ2001展」でした。
アートキャンプ2001実行委員会は沖縄県内の特別支援学校の教諭を中心に結成されています。当初は在学中に描いた絵を保管しており、その作品を中心に展示したところ、わかたけの利用者が多く「すごい作家がいる!」と気づいたことから、わかたけでのアート活動は始まりました。
また、日中作業として陶芸で器などを作ったりしているそうですが、空いた時間を使って自由に立体作品などを制作しています。わかたけの利用者が作ったシーサーは人気だそうで、沖縄ならではの作品です。

現在では、約100名の利用者のうち希望制で30名程が入れ替わりで週に一回活動を行うほか、日中作業の合間の時間を見つけて絵を描いたりすることもあるようです。わかたけのアート活動を担当する朝妻彰さんはアートキャンプ2001の立ち上げメンバーであり、実行委員長もされています。

わかたけには、県内外の展覧会で展示したりするいわば人もいれば、「美術作品」としての評価は受けづらい人もいます。しかし、外部からの評価とは無関係に、絵を描くことが好きで、描くことそのものに満足感を感じ、気持ちが落ち着いたり表情が明るくなったりすることがあり、利用者が皆緩やかに楽しめるような場が作られています。
長年続けていると作風が変わったり、途中で描くのをやめてまた再開したり・・・と様々なことが起こるそうですが、長い目で見ることで短期間で成果を出すことを考えずに制作に打ち込むことができるのも良い環境だと思います。

たくさん作品を紹介していただきましたが、お話を伺って一番印象に残ったこちらの狩俣明宏さんの作品です。
狩俣さんはバスやバスの運転手の絵をずっと描いている方だそうです。驚くのはバスの行き先表示や運転手さんの名前などを正確に記録していること。近くのバス停でずっと書き溜めていたため、バス会社からクレームが来る、といったこともあったそうですが、スタッフが丁寧に説明をして徐々に理解していただけるようになったそうです。
狩俣さんの作品を美術館で展示した際に、運転手の娘さんがたまたま作品を見たことが縁で、運転手さんの退職記念に差し上げたり、那覇市のバスターミナルのリニューアルに呼ばれて展示したりと、作品を通じて地域と関わりが生まれていることがとても興味深く感じました。

アートキャンプは現在も継続して活動しており、展覧会のほかワークショップなども開催しています。また、わかたけとしても地域の人を招いて陶芸ワークショップをしたり、近くにあるカフェ兼ギャラリーでは一般の人も展示ができるようになっています。
沖縄では障害のある方たちの表現活動が他県に比べるとあまり盛んとは言えないのが現状ですが、長年にわたる活動が実を結び、さらに活動の輪が広がっていくのが楽しみです。

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